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2010-08-25 16:03:57| 人氣398| 回應0 | 上一篇 | 下一篇

母乳育児と空間

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台湾では最近(はっきりしたことはわかりませんがここ10年くらいかな)母乳育児が推奨されています。私の通っている病院でも母乳育児を奨励(人によって は「強制された」と感じる人もいます)しています。私は母乳育児が奨励されるのは太古の昔から当然のことだろうと思い込んでいたので、以下の論文を読んで 驚きました。

台湾では粉ミルクが導入された当初は、粉ミルクの値段がとても高く「医者の奥さん」じゃないと子どもに粉ミルクを与えることができなかったそうです。だか ら、今でも台湾のお年寄りの中には、嫁が母乳育児をしようとすると、「母乳なんかダメだ!粉ミルクをたくさん飲ませて赤ちゃんを太らせなくちゃ!」と叱る 人がいるそうです。

台湾では1970年以降粉ミルクが普及しますが、これはこのころから助産士に頼らず、病院で子どもを生む人の方が多くなった時期と一致します。当時は、病 院と粉ミルクの企業が結託し、「母乳よりも粉ミルクの方が栄養があります」と大々的に宣伝したためだそうです。1969年生まれのこの論文の筆者のお母さ んは助産士を頼んでの自宅出産ですが、お金持ちの同級生はみな病院で生まれており、「病院で出産する」「粉ミルクで育つ」というのは、台湾では一定以上の 階級に属することを象徴するものでした。

また、香港では、「母乳育児をする人=中国大陸からの新移民=貧しい人」という偏見があるそうです。

日本の掲示板を読んでいると、ママ友同士の会話で、自然出産の人が帝王切開や無痛分娩の人を小ばかにするという話や、不妊治療の結果妊娠出産した人が、子 どもがいじめられるのを恐れて治療のことをひた隠しにするという話をみて、あっけに取られましたが、どこの社会も、妊娠・出産や子育てに関するその社会独 特の偏見があるということを知りました。

こんなこと、自分が妊娠するまではまったく考えたことがありませんでした。そして、一つの社会の「常識」しか知らなかったら、それにとらわれ、苦しい思い をするだろうなと思いました。複数の文化圏の状況を知っていれば、どちらからもある程度距離を保ち、何を言われても真に受けず、人類学や社会学のフィール ド調査をしているような気持ちになれると思います(もちろん嫌なことを言われれば嫌な思いをするでしょうが)。

以下の論文は母乳育児をする女性の空間経験をまとめたものです。赤ちゃんに母乳を与えるという行為を達成するためには、さまざまな困難を克服しなければな らないことが分かりました。この論文を読めば母乳のよさや、母乳マッサージなど、母親の意識改革や身体状況の改善など、母親個人を変えるだけでは、とても じゃないけど母乳育児を続けることはできないということが伝わってきます。同僚の無理解・非協力、家族の母乳に対する偏見、義父や同僚男性の性的好奇心に 満ちたまなざしやからかい、会社や公共空間に設置された授乳質のデザインの杜撰さなどなど、母親自身が変わるだけでは克服できない問題が、たくさんあるの です。

この論文の中では、会社のトイレで臭いのを我慢しながらこっそり搾乳する女性が登場します。女性が授乳する期間なんて長い人生から見たらほんのちょっとの 間なのに、どうしてこんなひどい目に遭わなくちゃいけないのでしょうか。これは「授乳中の女は会社に来なくて良い」といって解決する問題ではありません。 家にいたって義父や義母に嫌がらせをされて安心して授乳できない人もいるからです。清潔で安全な場所で安心して授乳、搾乳できる空間を家の中でも公共空間 でも確保するためには、当事者が声を上げ、専門家がそれに耳を傾け、よりよい授乳空間をつくらなくてはならないのです。


李惠貞(2003),持續哺餵母乳的母職空間經驗,國立台灣大學建築與城鄉研究所碩士論文。

台長: 雪子
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