東京国立博物館で開幕する特別展「台北 國立故宮博物院−神品至宝」のポスターなどで正式名称である「國立」が削除され、台湾政府が訂正されなければ展覧会を中止すると抗議していた問題で修正作業が終了、6月23日に予定通り開会式と内覧会が行われた。開会式では東京国立博物館の銭谷眞美館長がこの問題について謝罪。開会式に出席が予定されていた台湾の馬英九総統夫人は来日しなかったものの、門外不出の名宝「翠玉白菜」も無事に公開された。
「台北 國立故宮博物院」展は、宋から清代の皇帝コレクションが中心となっている国立故宮博物院の収蔵品約70万件から代表的な作品約230件を初めてアジアで紹介するもの。会期中、門外不出の「翠玉白菜」(東京会場)と「肉形石」(九州会場)をそれぞれ2週間限定で展示されることから、話題を呼んでいた。
しかし、6月24日開幕直前の6月19日に、東京の街頭にあった看板やポスターなどで、正式名称である「國立」の文字が削除され、「台北 故宮博物院」という展覧会タイトルになっていることを台湾メディアが報道。台湾政府が東京国立博物館に対し、訂正されなければ、展覧会の中止も辞さないと抗議していた。東京国立博物館の公式サイトや看板、ポスターは正式名称が使われていたが、展覧会主催メディア各社が問題となるポスターなどを作成していた。この問題を受け、6月20日に予定されていた「翠玉白菜」の開封式も中止。東京国立博物館では街頭の看板やポスター、公式サイトなどの訂正作業を行ったことから、台湾側に開催の同意を得て開幕の運びとなった。
開会式で、銭谷館長は「中華文明の成果というべき台北国立故宮博物院の名品を我が国で広く紹介できることは深い喜びです」と挨拶。「本展覧会の開催にあたり、ポスターなどにおける『台北國立故宮博物院』の名称の表記などについて、台湾の皆様方に不快な思いをおかけいたしました。東京国立博物館長としてこの問題を真摯に受け止め、すみやかに是正を行ってまいりました。このような事態を招いたことに対し、お詫びを申し上げます」と謝罪した。
また、「日本で最も古い歴史を持つ東京国立博物館ではこれまで、さまざまな展覧会を開催してきました。しかし、その開催が切望されながら、これまで実現できなかったのが本展覧会です。アジアで初めての『台北國立博物院展』として実現しました。門外不出であった『翠玉白菜』を2週間の期間限定でご出品いただくことになりました。愛らしい玉製品を始めとして、中華文明の奥深さをご堪能ください」と話した。
台湾側から開会式に参列した国立故宮博物院の馮明珠院長はこれに対し、「さきほど、銭谷館長の謝罪を台湾代表として受け止めました。大変、感謝いたします。友人関係で最も大切なのは誠実さとお互いを尊重する気持ちです。この2、3日で発生したことは残念だと思いますが、幸い最後には、東京国立博物館は国立故宮博物院とかわした『神品至宝展』の契約内容を順守してくださり、『國立故宮博物院』の正式名称を尊重してくださいました。銭谷館長や貴館の名誉が守られ、故宮博物院との友情を大切にしてくださったことに感謝します」と答えた。
また、「今日、この神品至宝展をご覧いただけるのは本当に容易ではありませんでした。北宋には汝窯という陶磁器があります。汝窯特有の釉薬の色は雨上がりの青空といわれています。すべてのトラブルや障害が汝窯の美しい雨上がりの色合いのように晴れ渡りまして、神品至宝展が大きな成功をおさめられるよう、祈っています」と語った。
この日、東京国立博物館には大勢の台湾メディアが取材に押し寄せた。ある台湾メディアの記者は、「この問題は台湾でも大きく報じられています。色々な意見がありますが、『いつも優しい日本にどうして政府はあんなに強い抗議をするのだ』と憤る声もありました。『翠玉白菜』は日本という国を台湾が信頼しているからこそ、初めて海外に貸し出しすることになりました。この問題が起きてしまい、今後は海外への貸し出しはできなくなるという見方もあります」と話していた。
展覧会の実現特別後援をしている日華議員懇談会会長の平沼赳夫衆議院議員は、台湾メディアから総統夫人が来日しなかったことについてコメントを求められ、「日本で故宮博物院の『國立』という文字をマスコミの人たちが抜かしたことは本当に残念です。そういう意味でお越しにならないのではないかと思っていますが、ぜひお越し頂きたいという気持ちでいっぱいです」と話した。
特別展「台北 國立故宮博物院−神品至宝−」は、6月24日から9月15日まで東京国立博物館で(「翠玉白菜」の展示は6月24日から7月7日まで)、10月7日から11月30日まで九州国立博物館で(「肉形石」の展示は10月7日から10月20日まで)、それぞれ開催される。
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