―コーヒーの焙煎を始められたきっかけは?
地元の旅行会社に勤めていたのですが、結婚を機に“一人でもできること、その仕事で暮らしていけることを何か始めなければ…”と漠然と考え始めたんです。いろいろと考えた結果、元々好きだった飲食業に興味が湧いて、中でも自分の好きな味を作ることができる、コーヒーロースターという仕事に惹かれました。その後、本を読んだり、セミナーに参加して、コーヒーのことを知れば知るほどますます惹かれ、コーヒーロースターなら一生楽しく、しかも一人で続けられるなと思いました。
―焙煎のどういうところが魅力だったのでしょうか。
世界でたった一つのオリジナルブレンドが作れることですね。例えば、きれいな酸味があり、少しのコクはあるけど重くはなく、後味のすっきりしたコーヒーを作ろうとしたとき、それに合わせて産地や焙煎度合いの違う豆を混ぜます。少しの違いで香味は変わるから、いかに自分のイメージとぶれないようにしていくのかが重要なんです。ロースターは死ぬまで完成を追い求め続ける、ロマンティックな仕事だと思います。
―「アアルトコーヒー」という名前はどこから?
フィンランド語で、建築家のアルヴァ・アールトの名前としても有名なのですが、僕自身は特別北欧が好きなわけではないんです。
ただ焙煎機を購入したとき、当時娘が気に入って使っていたベビーチェアと同じ、アアルトという名前を付けたので、「アアルト君がローストしてくれるから、アアルトコーヒー」と自然にそうなった感じです。驚いたのは、2月3日に「アアルトコーヒー」をオープンしたのですが、偶然にもアルヴァ・アールトの誕生日だったことですね。
―コーヒー豆にはどんな種類がありますか?
大きく分けると、ストレートとブレンドの2種類。ストレートは1種類の豆を焙煎して作られたもの、ブレンドは数種類の豆を混ぜ合わせて作ります。暑い夏に は酸味が強い方がさっぱりとおいしくいただたり、寒い冬は深煎りの濃い方が合ってミルクとの相性もいいので、気分や季節に合わせて豆を選ぶと楽しめます。 コーヒーが好きな方って、「やっぱりブラックで飲まなきゃ」というのがあるみたいなのですが、苦いと思ったら砂糖を入れればいいし、濃いと思ったらミルク を入れたらいいんです。コーヒー教室でもいつも言っているのですが、それぞれ味覚は違うし、自分がおいしいと思うものがやっぱり一番おいしい。おいしけれ ば何でもいいんです。
―おいしいコーヒー豆の選び方はありますか?
コーヒーは香りがすごく大事。挽いてある状態で買うと、空気に触れる面積が増えて酸化が加速し、どうしても匂いが飛んでしまうんです。おいしく淹れたいな ら、まずミルを買って、家で豆を挽くことをオススメしています。初めてのコーヒー豆屋で買うときは、きっと店主の想いが一番込められている、その店のメイ ンブレンドを選ぶといいですよ。
―コーヒーをおいしく淹れるコツは?
コーヒー豆を計量して、淹れる直前にミルで挽きます。あらかじめカップを温めて、ペーパーフィルターなら紙に直接お湯をかけないように、中央で小さく「の」の字を描くように注ぎます。手間を惜しまず、丁寧に淹れることが大切。基本さえ分かっていれば、コーヒーを淹れるのってすごく簡単なんです。何度も淹れているとお湯を入れるタイミングも分かってきて、好みの淹れ方を見つけられると思います。一番重要なポイントは笑顔で楽しく淹れること。意外とおいしくなるんですよ。
―初の著書『たぶん彼女は豆を挽く』を出版されましたね。
コーヒーに関する本は、意外と少ないんです。これまでのロースターが書いている本は、難解な専門書がとても多くて、僕自身、焙煎を始めた頃にたくさん読みましたが、よく分かりませんでした。保存方法、簡単な淹れ方など、コーヒーを最近飲み始めた方やまだ飲んでいない方でも、気軽に読んでいただける本があるといいなと、ずっと思っていたんです。
―庄野さんご自身は、コーヒーとどんなものを合わせるのがお好きですか?
普段はコーヒーだけで飲むことが多いのですが、コーヒーは繊細なものではないので、和三盆のような上品なものとは合わない気がします。一般的にはケーキやドーナツ、チョコなどがよく合うと言わ
れていますが、私はクリームチーズやナッツなど、塩分があるもの
と合わせると、甘みが増しておいしいと思います。
―オススメのパンやスイーツはありますか?
お店で「cimai」のパンを定期的に販売しているのですが、コーヒーにすごく合うと思います。徳島には甘い菓子パン系が多いのですが、「cimai」のパンは、がっちりしたハード系。スコーンにもピーカンナッツが入っていて、オススメです。
―コーヒー教室を全国で行うなどされていますが、コーヒーを通して伝えたいことなどはありますか?
どんなにおいしくても毎日の生活に負担のかかるコーヒーは、ずっと買い続けられないと思うんです。だから、ちょっとだけ頑張れば飲み続けられる価格で、銘柄に関わらず、ブレンドもストレートもすべて均一価格。販売日数は、焙煎日をふくめて7日間にして「いい生豆をちゃんと焙煎して、新鮮なうちに適正価格で販売する」ことが、最初から変わらないモットーです。とにかくたくさんの人にコーヒーを好きになって欲しいですね。