山中俊治ディレクション「骨」展
生物の骨格は、その優美な外観と 見事に連携している。それに比べ、人工物のそれはどうだろうか
プロダクトデザイナー・山中俊治氏がディレクションを手がけた『「骨」展─骨とデザイン。つくられた骨、未来の骨─』が、東京・六本木の21_21 DESIGN
SIGHTにて開催されている。明和電機やtakram design
engineering、中村勇吾氏など各界を代表する作家による「骨」をテーマにした未来的な作品の数々が展示されている、注目の展覧会だ。
山中氏は腕時計から鉄道車両に至るまで、幅広いジャンルの工業製品にデザイナーとして携わる一方で、エンジニアとしてヒューマノイドロボット「morph 3」や8輪ロボットカー「Halluc II」などのプロトタイプを研究者とともに共同開発した実績を持つ人物。最近の仕事では、JR東日本「Suica」の自動改札システム開発で15度手前に 傾けたアンテナ面を提案し実用化に貢献、2008年から慶応義塾大学で教授も務めている。
硬軟両方にアンテナを張り巡らせるプロダクトデザイナーが手がける “骨”をテーマにした展覧会とは、ぱっと聞いただけでは、ちょっと想像がつかない展示内容かもしれない。
実は、21_21 DESIGN
SIGHT側から山中氏への最初の打診では「身体をテーマに」というオーダーだった。そこから一歩進めて、身体を支える「骨」という構造体にテーマを フォーカスした背景には、山中氏の持論「何かデザインを考えるときは、つねに仕組み・骨格から考える」がベースとなっている。
「デザイ ン」というと表層的と思われがちな分野であるが、実は構造から考え抜かれたデザインには普遍的な美しさが備わっている。「生物の骨格は、その優美な外観と 見事に連携している。それに比べ、人工物のそれはどうだろうか」──そんなプロダクトデザイナーとしての自問自答が、展覧会を支えるテーマとなっているの だ。
本展は「標本室」と「実験室」の2つのカテゴリーに分かれている。まず最初に体験するのは「標本室」。ここでは、生物・人工物両方の現在までの「骨」につ いて、いろんな手法でつまびらかに見せてくれる。人工物としては、ボディがむき出しとなったフェアレディZをはじめ、細かい部品まで並べてみせたアーロン チェアやISSEY MIYAKEのリスト・ウォッチ、ソニーのオーディオ機器など。なんと最新の携帯電話iidaの「G9」までも分解してみせてくれている。
一方、生物の標本としては、ダチョウの骨格標本や、写真家・湯沢英治氏による骨の写真集『BONES─動物の骨格と機能美』から選び抜かれた美しいモノ クロームの写真が並ぶ。また、生物・人工物問わず、あらゆるものをレントゲンで撮影するX線写真家・ニック・ヴィーシーのレントゲン写真も複数展示され、 鮮烈な印象を与えてくれる。
「標本室」が「静」の部分であるならば、一方の「実験室」は「動」の部分。未来を感じさせる作品の数々は、非常にわかりやすいアクションをもって観る者 を引きつける。まるで人間の手のような、くねくねとした動きが印象的な「Flagella」は、慶応義塾大学・山中俊治研究室による作品だ。
その非常に滑らかな動きはやわらかい素材を使っているかのように見えるが、実はすべて固い素材でできているというのが興味深い。とにかく滑らかな動きを追 求したこの作品、あえて人工知能は使わずに仕上げているという。ちなみに「Flagella」とは、「鞭毛(べんもう)」の意味。
走りの力学的原理を真似た六足歩行ロボット「Phasma」は、takram design
engineeringによるもの。展示では六足歩行の動きをつぶさに確認してもらうために、あえてボディが縛り付けられているが、ひとたび解き放たれる と、床を縦横無尽に走り出す。足を3本ずつ(片方の前脚と後脚、そして反対側の中脚)交互に動かすことによって、安定走行できる仕組みとなっている。
会場一、笑いを誘っていたのは、明和電機による作品「WAHHA GO GO」。「笑う」というアクションを突き詰めたロボットなのだが、動力ははずみ車、手動で胴体側面の円盤を回転させる構造となっている。ふいごと人口声帯 を組み合わせていて、ちょっと不気味な笑い声を立てるのが面白い。
一方、派手な動きはないものの、骨・骨格に真摯に向き合った作品も多数展示されている。
MONGOOSE STUDIOによる作品は、座る人の位置や重さを光で表現し、力の伝達を視覚化したベンチ。構造の違うベンチを複数並べているので、構造によって力の伝達ルートが変わってくることを、実際に目で確認することができる。
「力の伝達を視覚化する」ということで言えば、中村勇吾氏の作品「CRASH」もそのひとつ。トラス構造体の数字が落下して壊れゆくさまを描いた映像による時計で、壊れゆく構造体に加重がかかったところが赤く美しく光るようになっている。
今回の出展作家の中で一番の若手、24歳の前田幸太郎氏の作品は、その名も「骨蜘蛛」。骨に強い愛着を持つ作家の思いが、会場の中庭を中心に独特の雰囲気を醸し出している。そして、その横にはブラジルを代表する現代アーティスト、エルネスト・ネトの作品も。
見応え満点の作品が満載の本展だが、実は作品以外にも見どころがある。それは、山中俊治氏率いるリーディング・エッジ・デザインによる会場のナビゲーショ ンシステムだ。反射材が貼られたテーブルの上の一片の紙を動かすことによって、天井に設置された赤外線カメラが反応し、インタラクティブなガイドを行う。 その反応速度の素早いこと! 紙の表裏でガイドがバインリンガルになっているのも心憎い演出。
テクノロジーの未来を見据えた楽しい展示は、老若男女が楽しめること請け合い。夏休みには家族で行くのもいいかもしれない。関連のイベントやワークショップも要注目。
出展作家(順不同)
玉屋庄兵衛(からくり人形師)+ 山中俊治(プロダクトデザイナー)
ニック・ヴィーシー(写真家)
エルネスト・ネト(アーティスト)
湯沢英治(写真家)
明和電機(アートユニット)
THA/中村勇吾(インタラクティブデザインスタジオ)
MONGOOSE STUDIO(クリエイティブ集団)
緒方壽人(デザインエンジニア)+ 五十嵐健夫(コンピュータサイエンス研究者)
参(デザインプロジェクト)
takram design
engineering(デザインエンジニアリングファーム)
前田幸太郎(デザイナー)
慶応義塾大学・山中俊治研究室
会場構成:トラフ建築設計事務所
ナビゲーションシステム:リーディング・エッジ・デザイン
山中俊治ディレクション「骨」展
21_21 DESIGN SIGHT
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
開催中~8月30日(日)open.11:00-20:00(入場は19:30まで)火休
お問い合わせ:21_21 DESIGN
SIGHT tel.03-3475-2121
21_21
DESIGN SIGHT 「骨」展
21 21 Design いつも面白い展覧があった。
今回も