いかにもにわか仕立てである。鳩山首相の退陣表明からわずか2日後、後継首相に菅直人・民主党代表が選出された。
これで大丈夫なのか、そんな懸念を払拭するためにも、菅・新首相は、外交・安全保障の基軸である日米同盟関係の修復と、日本経済の立て直しに全力を挙げねばならない。
◆戦略的視点が重要だ
社会民主連合から初当選し、政界入りした菅新首相は、「市民派」の政治家と言われてきた。確かに市民感覚も大切である。
しかし、今後は、国家指導者として、国民の安全と安心を守り、国益を重視するという大局的、戦略的な視点からの政治運営に努めてほしい。
首相指名選挙に先立つ民主党代表選で、菅新首相は、樽床伸二衆院環境委員長を大差で破った。
鳩山、菅、小沢幹事長の3氏による「トロイカ体制」のうち、「小・鳩」の2氏が退陣し、残る菅氏にお鉢が回ってきた。
新首相は、厚相として薬害エイズ問題に取り組んで注目を浴びた。鳩山首相とともに民主党を結党し、小沢氏が党首だった自由党との合併も実現した。
今回、党内の幅広い支持を集めたのも、多彩な政治経歴と高い知名度のためだろう。
それにしても党代表選では、政策論議が乏しかった。民主党は鳩山政権の失敗の検証なくして出直しができると、本当に考えているのだろうか。
菅新首相は、内閣・党役員人事に着手した。ここでは、小沢幹事長のように背後から首相をコントロールする「二重権力」構造を排除することが大事だ。
◆二重権力を排除せよ
内閣の要の官房長官には仙谷由人国家戦略相が内定し、幹事長には枝野幸男行政刷新相の起用が有力視されている。
新首相は、代表選出馬にあたり小沢氏について「しばらく静かにして頂いた方が、本人にも、民主党にも、日本の政治にとってもいい」と述べた。「非小沢」の仙谷、枝野両氏の重用は、小沢氏と距離を置く姿勢を示すものだろう。
新首相は、小沢氏主導で廃止された民主党の「政策調査会」の復活も表明している。
「政策決定の内閣一元化」方針により、停滞してきた党内の政策論議を、政調復活を機に活性化させる意義は小さくない。
組閣人事は、週明けに先送りされたが、数々の重要政治課題は、待ってはくれない。
菅新首相については、国家経営の基本的考え方や憲法改正への姿勢などがよくわからない、という指摘が多い。できるだけ早期に、国会の場で自らの所信を明らかにしてもらいたい。
新首相は、「日本外交の基軸が日米関係にあるという大原則はその通りだ」と語った。だが、日米同盟は、米軍普天間飛行場移設問題をめぐる鳩山政権の失政によって深く傷ついている。
普天間問題に関する日米共同声明を順守するのはもちろん、代替施設の位置や工法について8月末までに決定し、米側の対日不信を解消していくことが肝要だ。
経済政策に関して、菅新首相は、「強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に実現する」と強調している。
財務相として、2011年度の国債の新規発行額を今年度以下に抑えることなど、財政規律回復の必要性を説いてきた。
そのためにも、子ども手当などのバラマキ施策は早急に見直すべきだ。鳩山首相が現在の衆院議員の任期中、消費税率は引き上げないとしてきた“封印”をこの際、解いてはどうか。
◆官僚を使いこなそう
政策を着実に遂行するには、「政治主導」の名の下の官僚たたきをやめる必要がある。
専門的な政策の立案や危機管理の面で、官僚組織は有用である。政治家は、官僚たちをうまく使いこなせるだけの能力と度量を磨いていかねばならない。
菅新首相は、国民新党の亀井静香代表と会談し、連立政権の継続で合意した。さらに、今夏の参院選の結果次第では、新たな枠組みの連立政権も想定されよう。
数合わせを急ぐあまり、キャスチングボートを握る少数政党に振り回されることは、政治を大きく歪めることになる。
民主党は、外交・安保の基本政策で相いれない社民党との連立がうまくいかないことを身をもって知ったはずだ。社民党との“復縁”などは考えてはなるまい。
鳩山政権を崩壊に追い込んだ「政治とカネ」の問題は、鳩山、小沢両氏の退陣によっても、何ら解決していない。民主党がクリーンな政治をめざすというなら、両氏に国会で説明責任を果たすよう求めるべきだろう。
YOMIURI新聞により
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